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東京地方裁判所 平成3年(ワ)4424号 判決

原告

船山喜保

右訴訟代理人弁護士

高橋義道

被告

株式会社都理夢

右代表者代表取締役

白根学

右訴訟代理人弁護士

正野建樹

主文

一  被告は、原告に対し金一九七六万〇四八一円及びこれに対する平成三年四月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  被告は、主に不動産の売買及びその仲介を業とする株式会社である。

原告は、昭和六三年九月一日に営業を担当する従業員として被告に期間の定めなく雇用され、平成三年一月三一日に退職した者である。

2  原告は、平成二年七月四日、被告との間で給料(歩合報酬金)の額及びその支払方法について次のとおり合意した。

(一) 平成二年七月一日から同年一二月三一日まで(平成二年後期)、平成三年一月一日から同年六月三〇日まで(平成三年前期)を各半期として、半期の営業実績(入金実績)を最低一〇〇〇万円とする。

(二) 半期の営業実績が一〇〇〇万円を超えた場合には、次の割合で歩合報酬金を支払う。

〈1〉 一〇〇〇万円を超え五〇〇〇万円以下の分については三五パーセント

〈2〉 五〇〇〇万円を超え八〇〇〇万円以下の分については四〇パーセント

〈3〉 八〇〇〇万円を超えた部分については四五パーセント

(三) 歩合報酬金の支給については、平成二年一二月度と平成三年六月度の各賞与支給時に清算支給をする。

なお、原告に対しては、基本給名目で毎月五〇万円が支払われていた(これが固定給か営業実績一〇〇〇万円の分に対する三〇パーセントの歩合報酬金の仮払金であるかについては後記のとおり争いがある。)。

3  原告の平成三年前期の営業実績は、同年一月三一日の時点で次のとおり総額五九三一万五六六〇円(左記入金合計額六一〇九万四六六〇円から消費税一七七万九〇〇〇円を控除した額。)であり、同日までに被告に対する入金処理を完了した(入金の事実につき〈証拠略〉)。

(一) 協栄生命保険株式会社分

仲介手数料残額 二八四二万四六六〇円

(二) 東急不動産株式会社分

仲介手数料残額 二〇一七万円

(三) 株式会社ゼビックス分

仲介手数料残額 一二五〇万円

4  以上の事実関係のもとで、原告は、被告に対し、右営業実績に対する歩合報酬金一九七六万〇四八一円(一〇〇〇万円の三〇パーセントである三〇〇万円と四九三一万円の三五パーセントである一七二六万〇四八一円の合計二〇二六万〇四八一円から既払分五〇万円を控除した金額)及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成三年四月一六日以降の民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めている(なお、右歩合報酬金支払債務は、原告の前期退職により期限の定めのない債務となった。)。

二  争点

1  営業実績一〇〇〇万円までの分について三〇パーセントの歩合報酬金を支払うとの合意があったか

(原告の主張)

原被告間で、平成二年七月四日に歩合報酬金について合意した際、一〇〇〇万円までの分については、その三〇パーセントの歩合報酬金を支払うこととし、その支払方法については、一2(一)の事実に基づき、一〇〇〇万円の三〇パーセントである三〇〇万円を六等分した五〇万円を毎月末日に基本給名目で仮払支給し、半期の営業実績が一〇〇〇万円に達しなかった場合には不足分に対応する仮払支給分を半期毎の清算時に被告に返還することが合意された。

(被告の主張)

一〇〇〇万円までの分について歩合報酬を支払う旨の合意はなく、原告に対しては固定給として毎月五〇万円を支払う約定であった。

2  半期六か月間を継続して勤務することが歩合報酬支払義務の発生条件とされていたか

(被告の主張)

被告が特に原告のみに他の従業員に比べその三倍にも達する高額の歩合報酬を支払うことにしたのは、原告が被告において継続して勤務し成果をあげることを期待したためであること、歩合報酬の支給時期が半期六か月ごととされたことに鑑みると、被告の原告に対する歩合報酬支払義務は、少なくとも原告が半期六か月間被告で継続して勤務することを発生の条件としていたというべきである。原告は、平成三年前期については一か月しか勤務していないので、右条件が成就していない。

(原告の主張)

原被告間で右高額の歩合報酬について支払合意をしたのは、原告の従前の実績から同人に高額の歩合給を支払っても、それ以上に大きな利益を期待できると計算したからである。また、歩合報酬を半期六か月ごとに清算することに合意したのは、営業実績のあった月ごとに清算支給すると経理事務が煩雑になるので、他の従業員と同時期に行うこととしたためであり、半期六か月勤務することを条件としたものではない。

第三争点に対する判断

一  争点1(一〇〇〇万円までの分に対する歩合報酬金の請求)について

(証拠略)及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、平成二年七月四日に被告との間で原告の給料(歩合報酬)について合意した際、被告代表者白根学(以下「被告代表者」という。)に対し、半期の営業実績一〇〇〇万円の分についてはその三〇パーセントにあたる三〇〇万円を歩合報酬とし、これを六等分して月々五〇万円を基本給名目で支給すること、半期の営業実績が一〇〇〇万円を割った場合には不足分に対応する仮払い支給分を被告に返還することを提案し、被告代表者がこれを了承したことが認められる。

被告代表者は、原告から右のような提案を受けたが、被告としては月々五〇万円は固定給として支給するものであり、営業実績があがらなくともこれを返還してもらうつもりはないと答えた旨供述する。しかしながら、原告本人尋問及び被告代表者本人尋問の結果を総合すると、原告は平成三年一月被告代表者に対し退職に伴う歩合報酬の清算を求めた際、営業実績一〇〇〇万円の分に対してはその三〇パーセントの歩合報酬を請求したこと、右請求は口頭及び計算方法を示した書面により行われたこと、右請求に対し被告代表者が固定給であるから歩合報酬として計算するのはおかしいとの異議を述べたことはないことが認められ、この事実に照らすと右供述を採用することはできない。

そうすると、原告の歩合報酬については原告主張どおりの合意が成立したものというべきであるところ、原告の平成三年上期の営業実績が五九三一万五六六〇円であったことは前記第二の一のとおりであるから、原告の平成三年上期の歩合報酬額は、〈1〉内金一〇〇〇万円の三〇パーセントの三〇〇万円、〈2〉内金四九三一万五六六〇円の三五パーセントの一七二六万〇四八一円の合計金二〇二六万〇四八一円となる。

二  争点2(半期六か月間の継続勤務が歩合報酬発生の条件とされていたか)について

被告代表者は、原告が今後も継続して勤務することを期待して高率の歩合報酬を支給することにしたものであり、少なくとも原告が半期六か月間を継続して勤務することを右率による歩合報酬発生の条件としていた旨供述する。しかしながら、右供述は、このような条件を原告に説明したかどうかという肝心の点が曖昧であり、原告本人が歩合報酬の発生を右のような条件にかからしめるとの話はなかった旨供述していることに照らすと、右被告代表者本人の供述によっては原被告間で歩合報酬の発生を右条件にかからしめるとの合意があったと認めることはできず、他に右合意の存在を認めるに足りる証拠はない。したがって、被告は原告が半期の中途で退職したことを理由として原告の歩合報酬の支払を拒むことはできないというべきである。

三  結論

以上の事実によれば、本訴請求は理由がある。

(裁判官 山之内紀行)

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